Netflix Houseは「テーマパーク」ではない。入場無料の狙いとは
入場無料。10万平方フィート。ダラスとフィラデルフィアで相次いで開業
2025年末、Netflixが「Netflix House」というリアル施設をオープンしました。ストレンジャー・シングス、イカゲーム、ウェンズデー、ワンピースなどNetflixの人気作品を体験できるイマーシブ施設で、入場は無料。個別の体験チケットは39ドルから。2027年にはラスベガスに3号店が計画されています。
「Netflixがテーマパークを始めた」と報道されましたが、ちゃんと見ていくと、これはテーマパークではないんですよね。本記事では「Netflix Houseが本当に売っているもの」をIPビジネスの構造から紐解きます。このサブスタックでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、IPやキャラクター市場を構造から分解しています。ぜひフォローして他の記事も覗いてみてください。
Netflixが守りたかったもの
Netflix Houseが本当に売っているものはなにか、なぜNetflix Houseは入場無料なのか。そこ答えは、
月額1500円のサブスクリプションを守るための、いわば「広告費」なんです。
ざっくり例えて言うと、Netflix Houseはディズニーランドのコピーじゃなくて、スマホゲームの実店舗版なんですよね。
「入場無料」の経済学
Netflix Houseの最大の特徴は入場無料であることです。米ディズニーランドは入場料だけで2万円超。USJも1万円前後。でもNetflix Houseはタダで入れるんですよね。
なぜか。理由はシンプルで、Netflix Houseの目的は入場料で稼ぐことではないんです。
Netflixの本業はサブスクリプション、つまり月額課金です。月額1500円前後を世界で3億人前後から徴収している。この「月額課金の維持」がNetflixのすべてです。新規会員の獲得と、既存会員の解約防止。Netflix Houseはこの2つに効く施設として設計されています。
入場無料で誰でも来られる。来場者はNetflixの世界に浸かる。「ストレンジャー・シングスの続き、家で観よう」と思う。これが新規獲得。既存会員にとっては「Netflixに入っているとこういう体験もできるんだ」という付加価値になり、解約を思いとどまる理由になる。地味だけど、これがいちばん効くんです。
わたしがプロデューサー時代に「無料のイベントは広告費として計上しろ」と教わりました。当時はピンとこなかったんですよね。「なんでわざわざ赤字のイベントをやるんだろう」って。でも売上が伸びる結果を見て、ようやく腑に落ちた経験があります。イベント単体の収支は赤字でも、それが本業や商品の売上を押し上げるなら、イベントの赤字は広告費。Netflix Houseの入場無料は、サブスクリプション事業のための広告費なのではないでしょうか。この広告費は、オンラインのCMなどに比べて「体験できる」という、全く違う価値があるのです。
ディズニーも任天堂もサンリオも、そしてポケモンも、世界で覇権を取っているIPは、みんな最終的には体験施設をやっているんですよね。このあたりは長くなるので、別の記事で深掘りしたいと思います。
「モールの中」に作った意味
Netflix Houseが入っているのは、ダラスのGalleria Dallasとフィラデルフィア郊外のKing of Prussia Mall。どちらも巨大ショッピングモールです。
テーマパークは郊外に作るのが常識です。広大な土地が必要だし、専用のインフラが必要だから。でもNetflix Houseはショッピングモールの中に作った。
これはSphereに代表される「都市の中心部に体験を作る」というアメリカエンタメビジネスの流れなのではないでしょうか。Netflix Houseはさらに合理的です。Sphereは専用の建物を建てた。Netflix Houseは既存のモールのテナントとして入っている。建設費は桁違いに安いんですよね。
しかもモールには「すでに人がいる」。買い物に来た家族が「あ、Netflix Houseだ」と寄る。わざわざ目的地として来なくても、偶然の来場が発生する。MrBeastのFeastablesがWalmartの棚に並んだのと同じ構造で、「偶然の出会い」を最大化する設計です。
経験から言えば、IPの体験施設を「既存の人流に乗せる」のは正しい判断です。テーマパークは「わざわざ行く場所」で、来場のハードルが高い。モール内の施設は「ついでに寄る場所」で、ハードルが低い。低いハードルは来場者数に直結します。
ただ、日本で言うと施設が都心に集中していますし、地価も高く場所も狭いです。こうした大型の体験型施設を作るとなると、どうしても(都心から)少し離れた場所になってしまうため、このモデルをそのまま日本に置き換えるのは難しいかもしれません。
一方、最近では渋谷パルコなどが、ポケモンやジャンプをはじめとした様々なIP(知的財産)が集まる施設へと進化しています。インバウンド向けですが。そうした動きを見ると、都心においても、このような体験型施設は今後増えていくのではないでしょうか。
ディズニーとの違いは「入れ替え」ができること
Netflix Houseとディズニーランドのもっとも本質的な違いは「コンテンツの入れ替え」にあります。
ディズニーランドのアトラクションは建設に数年、建設費に数百億円かかります。一度作ったらかんたんに変えられないんですよね。スプラッシュ・マウンテンの改装だけで数年を要しました。
Netflix Houseの体験は、デジタルとセットの組み合わせで作られています。イカゲームの体験が飽きられたら、別の作品に差し替えられる。新しいNetflixシリーズが話題になれば、数ヶ月で体験をアップデートできる。これって地味だけど、めちゃくちゃ大きいんですよね。
テーマパークの弱点は「陳腐化」です。開業から10年経つと、どんなアトラクションも古く感じる。Netflix Houseはコンテンツの入れ替えで陳腐化を防げる。Netflixが毎月新しいドラマを配信するように、Netflix Houseも体験を更新し続けられる。配信プラットフォームの「更新し続ける力」を、リアルの空間に転用した設計です。
「グッズ」と「食事」が本当の売上

入場無料のNetflix Houseが収益をどこで上げているか。正直、答えはシンプルです。サブスクリプション以外だと施設内のショップ、つまりグッズとレストランしかないでしょう。
Netflix HouseにはNetflix BITESというレストランと限定グッズのショップが併設されています。イカゲームのダルゴナキャンディ、ストレンジャー・シングスのエッグワッフル。作品の世界観をテーマにした食事体験は、SNSで写真を撮って拡散したくなるように設計されています。
限定グッズも「ここでしか買えない」仕様です。Netflix Houseのロゴが入ったアイテムは、来場した証拠としての価値があります。テーマパークの土産物と同じ構造で、「体験の証拠」にお金を払わせている。うまいですよね、本当に。
入場無料→体験でテンションが上がる→グッズとレストランで消費する。この動線は、無料のスマホゲームが課金で稼ぐフリーミアムモデルとまったく同じです。「入り口はタダ、中で課金」。デジタルの世界で完成したフリーミアムを、リアルの空間で実践している。これがいわば「リアルのフリーミアム」です。
というわけで
Netflix Houseが入場無料にした本質は、太っ腹だからではありません。月額1500円の財布をひとつでも閉じさせないために、Netflixは10万平方フィートの空間をタダで開放した。それだけのことなんですよね。
日本でも、期間限定のポップアップショップが原宿で Netflix のグッズをよく売り出しています。
こういった体験施設も日本に来ることを楽しみにしながら、私は引き続き Netflix を楽しみたいと思います。
それでは。
このサブスタックでは、エンタメビジネスやIPビジネスについて、わたしがエンタメ企業で事業統括・プロデューサーとして関わってきた経験をもとにビジネス視点で発信しています。どこのアカウントかわからなくなる前に、ぜひ購読をよろしくお願いします。







