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ジャンプ100万部割れ。部数が映したのは読者数より漫画が置かれる場所。
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ジャンプ100万部割れ。部数が映したのは読者数より漫画が置かれる場所。

2026年8月5日、週刊少年ジャンプの部数が98万5,000部になったことがわかりました。

日本雑誌協会が公表している印刷証明付発行部数の、22026年4〜6月の平均部数は98万5,000部。2008年のweb公表開始以来、初めて100万部を下回った。

そして同じ日に、もうひとつのことが確定しました。協会が部数を公表している雑誌に、100万部を超えるものが1誌もなくなったんです。

この報道に対して、「実はノーダメージなのでは」という見方があります。紙が減ってもアプリがある、電子とIPで稼げているのだから、と。

わかります。わたしも最初はそう思っていました。

ただ、そう書いている記事をいくつか読んで、気になったことがあります。読者の数を、誰も数え直していないのです。アプリの累計ダウンロード数と、紙の週あたりの部数を並べているものもありました。累計は積み上がっていく数字で、週あたりは毎週リセットされる数字です。単位が違うので、並べても何も言えません。

なので、数えました。日本雑誌協会が公表している18年分、73期ぶんの部数を全部です。

出てきた絵は、思っていたのとかなり違いました。ジャンプに触れている人は、紙の部数から想像するよりずっと多い。ただし紙が減ったぶんアプリが伸びた、わけでもなかった。そして紙の部数減少には、読者側の変化だけでなく、ジャンプを並べる場所の減少も重なっていました。

このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。

98万5,000部は、何を数えた数字なのか

最初に、この数字が何を数えたものなのかをはっきりさせておきます。ここがずれていると、あとの話が全部ずれます。

日本雑誌協会(雑誌の出版社でつくる業界団体)が公表しているのは「印刷証明付部数」です。定義はこう書かれています。

算定期間:4月1日~6月30日に発売された1号あたりの平均印刷部数

刷った数であって、売れた数ではありません。ざっくり言えば、書店とコンビニに届けるために何冊刷ったか、です。売れた数のほうは日本ABC協会が「返品を差し引いた実売部数」として別に定義しています。今回報じられた98万5,000部は、刷ったほうです。

筆者作成

ではジャンプの実売はいくつなのか。公表されていません。返本率(刷ったうち何%が返品されたか)もです。だから「実際はもっと少ない」とは言えても、いくつなのかは誰にも言えない。業界平均の返本率で割り戻す計算も見かけますが、それは根拠のない数字を作っているだけなので、ここではやりません。

もうひとつ、この制度は誰のためにあるのか。文化通信に、雑誌協会がweb公表を続けてきた経緯が出てきます。

広告会社からの利用が増大、雑協ホームページへのアクセスの多くを部数検索が占めるようになった

広告会社です。この数字は、広告を出す側に規模を示すために整えられてきました。作品の人気を測るために作られたものではありません。

数字を見たときは、まずそれが何を測った数字なのかを確かめる。今日の話は、最後までずっとこれです。

73期を並べると、崩れ方が見える

筆者作成

公表が始まったのは2008年4月から6月の期で、そのときが約278万部。公表史上の最高値は2011年1月から3月の約296万部で、今回の98万5,000部はそこから66.8%減っています。3分の1以下です。

200万部を割ったのが2017年1月から3月。そこから150万部、120万部と落ちて、今回100万部を割りました。ただし右下がりの一本道ではありません。2024年7月から9月と、2025年1月から3月は、前の期より増えています。

よく引かれる653万部は、この線とは別の話です。集英社の社史に記載があり、1994年12月発売の1995年新年3・4合併号で、集英社発表の歴代最高。ただしこれは1冊分の、しかも1年でいちばん売れる新年号の数字です。四半期の平均とは数える単位が違うので、そのまま並べると落差が実際より大きく見えます。

集英社小史|集英社 ― SHUEISHA ―

それから、報道にはあまり出ていないことがひとつ。73期分を並べるついでに各期の全雑誌も見たところ、2018年10月から12月の期以降、100万部を超えている雑誌はジャンプ1誌だけでした。30期、ずっとです。その少し前に、週刊少年マガジンが99万5,017部で100万部を割っています。

ジャンプは日本で最後の100万部雑誌でした。今回消えたのは、ジャンプの記録であると同時に、100万部という枠そのものです。

では、読者はどこにいるのか

紙が減ったぶん、人はどこへ行ったのか。

筆者作成

集英社が広告主向けに出している媒体資料に、少年ジャンプ+の平均WAU、つまり1週間に1回以上使った人の数が載っています。アプリで480万人、ブラウザ版を含めて680万人。2025年12月時点です。

紙は1週間に98万5,000部、ジャンプ+は1週間に480万人。どちらも週で区切られているので、並べられる数少ない組み合わせです。

ただし、単位が揃うことと、同じものを測っていることは別です。片方は刷った部数で、もう片方はアプリを開いた人の数。ジャンプ+は初回無料で読める作品が多いので、開くことと買うことの距離もまるで違います。オリジナル連載も多いので、480万人がそのまま本誌の読者というわけでもありません。

だからここから言えるのは、ジャンプに触れている人の数は紙の部数から想像されるよりずっと多い、ということだけです。

買っているほうの数字もあります。デジタル版の週刊少年ジャンプは、2022年10月時点で毎号70万部を超えていました。集英社のキャンペーンページに「毎号70万部突破」とあり、当時のジャンプ+編集長だった細野修平さんも、定期購読と単号を合わせて週に70万部が売れていると話しています。無料で開いた人ではなく、お金を払った数です。ただしこれ以降、集英社は電子版の部数を一度も更新していません。

海外もあります。9言語で展開しているMANGA Plus by SHUEISHAは、1か月に1回以上使った人が650万人。

少なくとも、紙の98万5,000部だけを見て、ジャンプに触れている人全体が同じ割合で減ったとは言えません。ただし、全体が増えたのか減ったのかも、公開数字だけでは判定できません。

ところが、アプリも伸びていない

問題はこの先でした。

さきほどの480万人を、過去の媒体資料と見比べてみたんです。すると2023年4月から9月版にも、同じ480万が載っていました。古い版を開いてしまったのかと思って、日付を見直しました。1か月あたりで数えた700万人のほうも、その版から今日まで一度も変わっていません。動いたのは1日あたりの数字だけで、210万から200万へ、むしろ減っています。

ここは慎重に書きます。媒体資料が3年間同じだからといって、実際に動いていないとは限りません。10万の位で丸めた数字なので数万人の増減は表に出てこないし、資料の更新が追いついていないだけかもしれない。

それでも、少なくとも集英社が広告主に示している数字のうえでは、ジャンプ+のアクティブユーザーは3年間ほぼ横ばいです。

これは、わたしが最初に立てた仮説を壊しました。紙が減ったぶんアプリが伸びたのだと思っていたのですが、少なくともジャンプ+の数字はそう動いていない。アプリが横ばいのまま、紙だけが落ちています。

紙の本誌を読んでいた人がデジタル版に移ったのかどうかは、そちらの部数が2022年を最後に公表されていないので、確かめようがありません。

では、いま紙を落としているのは何なのか。答えは、

答えは、本を運ぶ会社の決算に書いてあった

開くのは、集英社の決算ではありません。

わたしはこれまで、エンタメ企業の事業統括・プロデューサーをしていました。いまはAIを武器に、一人で会社を立ち上げています。立場は変わりましたが、ひとつ癖が残っていて、数字が動いた理由がわからないときは、その数字を出している会社ではなく、一段下で物を運んでいる会社の決算を開きます。作品をつくる会社は作品の話をしますが、物を運ぶ会社は運んだ量の話をする。理由が書いてあるのは、たいてい後者なんですよね。

雑誌の場合、それは取次です。出版社から雑誌を仕入れて、全国の書店やコンビニに配っている卸の会社のことです。

まず何が起きたのか。日本出版販売、いわゆる日販は、2025年2月にファミリーマートとローソンのおよそ3万店への配送をやめました。トーハンは、両チェーンそれぞれ約1万店、合計約2万店への配送能力があると発表する一方、約3万店すべてとの合意ではないとしていました。出版科学研究所は、その移管の過程で雑誌販売を終了した店舗も多かったと説明しています。

書店も減っています。報道によると2026年3月末の書店数は9,993店で、はじめて1万店を割りました。ピークだった1998年度の4割ほどです。

そのうえで、日販の2025年度の決算報告を読みます。

取次事業の約8割を占める日本出版販売(日販)が391億円の減収。そのうち約6割はCVS取引終了によるもの。

CVSはコンビニエンスストアのことです。自社の減収の6割を、コンビニとの取引が終わったことに、当事者自身が帰属させています。

筆者作成

同じ資料で、日販の雑誌売上高は前年より28.6%減っています(前年の71.4%)。日販は、会社全体の減収の約6割をコンビニ取引終了によるものと説明しています。ただし、雑誌売上の28.6%減のうち、コンビニ取引終了が何割を占めたのかまでは公表していません。

その隣に、もうひとつ重要な数字があります。日販と取引を続けている既存の書店では、雑誌の店頭売上が1.7%減(前年の98.3%)にとどまっています。

少なくとも、取引が続いた店舗だけを見れば、雑誌売上の減少は限定的でした。一方で、閉店した店や雑誌販売を終了した店は、この比較の分母に入っていません。

それでも、これだけでは決まらない

ここまで読んで、うまくできすぎていると感じた方がいると思います。わたしもそう思ったので、反対側の材料も並べます。

まず、順番が逆かもしれない。コンビニでの出版物の売上は、撤退のずっと前から落ちていました。日販自身が2023年度の中間決算で、コンビニ取引が16億円の営業赤字だったと明かしています。撤退はその赤字の結果でもある。「配送をやめたから売れなくなった」のではなく「売れなくなったから配送をやめた」という順番も成り立ちます。

それに、統計をつくっている当事者は別の説明をしています。出版科学研究所は紙のコミックスの縮小を「既刊・新刊ともに読者のデジタルシフトが進んでおり」と書いています。読者が移った、という説明です。

数字の面でも、紙のコミック誌に限れば、撤退の前年である2024年の時点で販売金額はすでに9.7%落ちていました。2025年の落ち込みは12.7%なので、撤退で増えたぶんは差の3ポイント程度と見ることもできます。

そして、いちばん弱いのは自分が出した数字のほうです。「店頭では1.7%しか落ちていない」は、日販と取引を続けている店の数字です。閉店した店や、棚をなくした店は、分母に入っていません。残った店だけを見れば減っていないのは、ある意味あたりまえです。

ここまで並べたうえで、それでも売り場の側の説明を捨てなかった理由がひとつあります。時間が答えを出したからです。

出版科学研究所が2026年7月に出した上半期のリリースに、こう書かれています。

雑誌は同3.8%減の1,751億円。…前年の大手コンビニエンスストアの帳合変更、『週刊ダイヤモンド』の書店販売終了などから一巡。

帳合というのは、どの取次から仕入れるかという取引関係のことです。雑誌全体で見ると、2025年の1年間で10.0%落ちていたものが、2026年の上半期には3.8%減まで戻っています。

雑誌市場の減少率は、2025年の10.0%減から、2026年上半期には3.8%減へ縮小しました。出版科学研究所自身も、前年のコンビニ取引の変更などによる影響が一巡したと説明しています。

この変化だけで、需要が減っていないとは言えません。ただ、2025年の大幅減には、読者側の変化だけでなく、帳合変更という一時的な流通要因も含まれていた。そう考える根拠にはなります。

部数は、読者ではなく流通を測っていた

部数が測っていたのは、その雑誌を読んだ人の数ではありません。その雑誌が、紙という形にどれだけ投入されたかです。

だとすると、こうなります。棚が減れば、読者数の減少がそれより小さくても、刷る数は減ります。

100万部という数字が意味していたのは、「100万人に読まれている」ことではなく、「100万部を刷って、運んで、並べられる流通がこの国にある」ことでした。今回の100万部割れには、作品の人気や読み方の変化だけでなく、そうした流通の縮小も表れています。

もちろん、これで全部が説明できるとは思っていません。紙で読む習慣が薄れているのは確かですし、少子化もあります。ただ少なくとも「100万部を割った、だから読まれなくなった」という一本の線は、数字のうえで成立していません。

最後に、いま編集部が見ている数字を確認します。

少年ジャンプ+の籾山悠太編集長は、「ジャンプ+の未来を語る夜」というトークイベントでこう話しています。

マンガアプリの多くは、アプリの売上率、ユーザ数を増やすことを目的にしているものが多いと思いますが、『ジャンプ+』はちょっと違う。ヒットマンガがたくさん出るかどうかが指標、目標になっています。

ただし同じ人が別の場では「もちろん、売上もユーザー数も大事です」と言い、別の取材では「連載一話ごとの閲覧数」をもっとも重視すると話しています。数字を見ていないのではなく、目的の位置に何を置くかという話です。

1,000万人が熱狂するマンガ雑誌を目指して - はてなが集英社と振り返る「少年ジャンプ+」の10年【後編】 - Hatena Developer Blog

部数という測りが壊れたのではありません。編集部は、とっくに別の測りも見ていたわけです。

この記事から言えるのは2つだけです。

ジャンプに触れている人の数は、紙の部数から想像されるよりずっと多い。そして紙の部数が減った理由の少なくとも一部は、読者ではなく売り場のほうで説明できる。

それ以上のことは、公表されている数字では言えません。

それでも、毎週月曜に新しい話が載ることだけは、この18年変わっていない。数字がどれだけ動いても、描いている人の一週間は変わらないのだと思います。それってまじですごいことですよね。

それでは。

朝日けけ。

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