ガンダム、キティ、アンパンマン、マリオ。これらの名前を聞くと、ほとんどの日本人は知らないことはないでしょう。一方で今や日本を代表する IP となったこの4つの作品も、実は最初から人気だったり、大きく利益を出していたり、順風満帆な道を通ってきたわけではないんですよね。
半世紀経った今となっては、莫大な売上と利益をもたらすこれらの「IP」と呼ばれる作品、およびその権利ですが、世の中に出た最初の時に、ここまで大きくなると見抜いた方も存在しないのではないでしょうか。
本記事ではそんなエンタメビジネス界隈でIP、アイピーと叫ばれる時代において。現在、日本を代表する IP たちも、生まれた時は IP には見えてないよねという「ジレンマ」について解説していきます。
まずは『機動戦士ガンダム』。
だれもが知っていますよね。いまでは世界的なIPとなった作品ですが、最初のテレビアニメは当初52話までの予定だったのに、全43話で終了しています。公式資料では、低視聴率と当時の関連商品の不振を背景に、予定より短い話数で放送終了になったんですよね。
それでも、最初のガンプラが発売されたのは1980年7月で放送終了から半年のことでした。ちなみにアニメ放送中に発売されていた商品と、この初代ガンプラはまったくの別のものです。

次にみんな大好き『ハローキティ』の最初商品であるプチパースは人気商品でした。それでも、3代目のデザイナーであるサンリオの山口裕子さんが担当になる1980年ごろには、キキ&ララのほうが人気だったそうです。つまり谷だったんですよね。そこから服やポーズ、物語を増やし、1984年には友だちのタイニーチャムが登場。それがきっかけで、1985年にキティはサンリオのトップセールスに返り咲きました。

『アンパンマン』の最初は、1969年に現れ、はじめは大人向けのメルヘンな作品として展開されたが、1973年に幼児向けの絵本になりました。現在まで続くテレビシリーズが始まったのは1988年です。原型から19年経って絵本に、そして絵本から15年が経ってアニメになっている。
1981年の『ドンキーコング』は、成功したゲームでした。ただ、プレイヤーが動かす主人公は、まだ「ジャンプマン」「ミスター・ビデオ」などと呼ばれていました。その人物がマリオという名前を持ち、1983年には『マリオブラザーズ』、1985年には『スーパーマリオブラザーズ』の主人公になります。

IPの定義
本題に入る前にまず、IPの定義について簡単にまとめましょう。直訳すると知的財産の意味で、主にアニメ、漫画、ゲームのキャラクター、音楽など、作品そのものや権利を指します。ただ、これだとどんな作品も IP になりますよね。
イラストを1枚描いたらIPなのか
漫画の読み切りを描いたらIPになるのか
漫画の連載が始まったらIPになるのか
私は違うと思います。それらはまだIPではなくて、作品です。なぜなら私はIPの定義を、「時間に耐え、感情を動かすもの」だと考えるからです。※詳細は記事にまとめていますので、併せてどうぞ。
この定義では、生まれた時点ではまだIPではありません。テレビアニメであり、キャラクターイラストであり、漫画であり、ゲームあり、キャラクターたちです。
こう考えると、人が最初につくれるのは、作品までです。それがどれだけ時間に耐えられるかは、生まれた日に決められません。
やめる理由ならいくらでもある
話を戻しましょう。冒頭でご紹介した4つの国民的な IPも、最初からずっと大成功だというわけではなく、
ガンダムは、テレビ放送の初期不振。
キティは、最初の商品が売れたあとの低迷。
アンパンマンは、主なターゲットと届け方の変更。
マリオは、成功したゲームの無名のキャラから、名を持つメインキャラへ移った例です。
道のりは、ぜんぶ違います。
ただし4つに共通するのは、最初の結果や一度の不調だけでは、その作品の可能性を測れないということです。
もちろん、新しい作品の視聴率・読者数・閲覧数・売上といったわかりやすい指標を見て、次の予算を決めることは、とても合理的です。企業なら絶対にそうするでしょう。人もお金も有限ですからね。会社は利益を求める。数字を無視して、すべての作品を継続することはできません。
ただ、4つの事例を見て思うのは、作品の黎明期において足元の数字が悪いからといって、「その媒体の後続を止める判断」と「作品そのものを終了にする判断」は、まったく別だということです。
なぜなら、いま足元で出ている数字は、その作品を「どの範囲まで」評価できているのかを、まだ測りきれていないかもしれないからです。
初回のアニメ実績で判断していたら、2500億の IP は存在していない
ガンダムがその答えを教えてくれています。

初代ガンダムのテレビ放送は、1979年4月から1980年1月まででした。
最初のガンプラが発売されたのは、その半年後です。
当時の視聴率と商品の売れ行きが測ったのは、それぞれテレビ放送と、その時点で売られていた商品への反応です。もちろん、それらは後の商品需要を予測する材料にはなります。ただ、放送終了後に店頭へ並ぶガンプラへの反応を直接測った数字ではありません。商品そのものが、まだ売られていなかったからです。
初代ガンダムは、放送中に見えた数字だけでは、まだ売られていないガンプラへの反応まで測れません。そこまでを同じ物差しで評価しようとすると、どうしても範囲が広くなりすぎてしまいます。
とはいえ、これは当時の終了判断が間違いだった、と責める話ではありません。その時点で見える数字と商品の状況から、限られた予算を配り直す。運営する側としては、きわめて合理的な判断です。
大事なのは、テレビ放送への判断を、そのまま作品の「終わり」と同一視しないことです。そうしなければ、放送とは別の場所で、あらためて反応を確かめる余地を残せます。
要するに、最初の1回やってダメだったからといって終了判断せず、諦めずに次の一手を打つ、ということですね。
続けるとは、次の届け方を試すこと
「続ける」と聞くと、同じ作品を同じ場所へ置き続ける姿を想像しがちです。でも、四つの公開年表に並んでいるのは、むしろ変化です。
ガンダムには、再放送とプラモデルという別の接点ができました。
キティは、服を着て、ポーズを持ち、物語と友だちが増えていきました。タイニーチャムは、その試行の一つです。タイニーチャムだけが人気を戻した、とまでは言えません。
アンパンマンは、大人向けのメルヘンから幼児向けの絵本へ移り、さらに現在まで続くテレビシリーズになりました。1973年の絵本から、1988年に始まった現在のテレビシリーズまでが15年です。
マリオはゲームから別の媒体へ移ったわけではありません。一つの成功作の主人公が名前を持ち、自分の名を冠した作品の中心へ移りました。変わったのは、呼び方と役割と、作品の設計です。
だから、続けることを「時間だけを延ばすこと」「同じことを続ける」だとは考えません。
受け手のなかに残った反応を見つけ、その反応を頼りに別の商品、別の受け手、別の役割でもう一度試す。続けるとは、次に出会う場所をつくることです。
終了を決める前に
では、いま数字が弱い作品をどう見るか、考えればいいのか
それは、
三つの順番で見るようにしています。
一つ目は、その数字が何を測ったのかです。
動画の再生数なら、その尺、その配信面、その時期に再生された回数です。商品の売上なら、その商品、その価格、その売り場で成立した金額です。どちらも大切な数字ですが、作品のあらゆる届け方をまとめて測った数字ではないんですよね。
その作品のポテンシャルは、本当に測りきれているでしょうか。最初に選択したメディアの数字だけを信じて、それだけを見ていると、視野が狭くなってしまうことがたくさんあります。
例えば、ちいかわはコロナ禍の X(旧Twitter)で一気に認知を広げて話題になりましたが、その本来の破壊力を測るのは、やっぱり店頭に並んだときのグッズの可愛さです。「つい買ってしまう」ぬいぐるみの破壊力です。それらを身の回りに置いたときの「体験」のほうだと思うんですよね。
だからこそ、キャラクタービジネスにおいては、仮に SNS の投稿で多少反応が悪くても、「グッズが展開できたかどうか」「売れるかどうか」を見ることが大事になるのです。
二つ目は、その数字の外に、具体的な反応が残っているかです。
キャラ名が覚えられている。あるシーンが何度も語られる。二次創作が起きている。たとえ数は多くなくても、こうしたファンや読者、視聴者の「別の形でもう一度楽しみたい」「もっと作品に触れたい」という気持ちが残っているかどうか。
次に試す材料になるのは、こうした人物、場面、欲求への反応です。そうした小さな声は、今のネット時代なら、きっとどこかにシグナルとして現れているはずです。
三つ目は、その反応を試す次の届け方と、実際に動かせる人、予算、流通があるかです。
この三つの確認は、成功を保証する条件ではありませんが、わたしは、この三つを確認できたとき、初出の数字と最終判断を分けて考えるようにしています。
わずかなシグナルだったり、やり残したこと、そしてそれを動かす人や予算があれば、諦めずに次の「一手」を打つでしょう。
一方で、反応がない。次の届け方の仮説もない。動かす人も、予算も、流通もない。その状態で時間だけ延ばしても、作品にとってプラスにならないことが多い。そう判断したときは、その作品を区切り、クリエイターと一緒に次の打席に立つほうが良い、と決める場合もあります。
次の一手は、成功を保証しない
本記事で挙げた4つの例は、いずれも現在まで残った作品たちです。
続けられたから大きくなったのか、
最初から人気だったから続けられたのか。
これは、いわば鶏卵の問いです。
失敗した作品を含む分母がない以上、4つの事例だけから「届け方を変えれば成功する」「何年続ければIPになる」とは言えません。ガンプラ、タイニーチャム、アンパンマンのテレビシリーズ、マリオという冠作品のどれか一つだけを、成功の原因だと断定することもできません。
公開資料から確認できるのは、最初の形とは別の一手が後から出され、展開が続いたという「順番」までです。
わかることは、ひとつだけです。
次の一手は、突破を保証しません。
でも、次の一手を置かずに運営を終えれば、その運営から突破が生まれる可能性も、そこで終わります。
人が最初につくれるのは作品まで
作品をつくる側が、未来のヒットを予測することまでできません。
できるのは、作品の可能性を信じ、足元の数字が、なにをを測ったのかを見極めること。消費者の反応を見つけること。小さなシグナルをしっかり受け止めること。そして、別の形で次に届ける一手を生み出すことです。
人が最初につくれるのは、作品までです。
その作品が時間に耐え、
もう一度誰かの感情を動かしたとき、
あとからIPと呼ばれるものになる。
まだIPではない作品に、次に出会う場所をつくる。
わたしは、それが作品を運営する人の仕事だと思います。
それでは。
朝日けけ。
高評価をいただきますと、創作のモチベーションになります。
いつも読んでくださってありがとうございます。
















