すこし前の話題先日、西野亮廣さんと田中聰さん(GOKKO CEO)のIPに関する投稿がXで話題になっていました。
「経営者とIPは相性が悪い」
「IPは正しい経営判断からは生まれない」
という主張なんですよね。
元IPプロデューサーとして、これを読んで思ったことがあります。
彼らの言っていることは正しいんです。
ただ、現場にいた人間として、もう一歩踏み込んだ話をしたいなと。
結論から言うと、大企業でIPが生まれない本当の理由。
それは、経営者/創業者本人が本気でやらないから。
これに尽きると思っています。
本記事ではこの理由と構造について、深掘りながらまとめていきます。
「IPがほしい」と言う企業の正体
最近「IPがチャンス」「日本はIPビジネスが成長筋」「IPで外貨を稼ぐ」という言葉をよく聞きますよね。
これ自体は正しいんです。
ただ、このタイミングで「IPが欲しい」と言っている企業のほとんどは、今IPを持っていない企業なんですよね。
もしくは、既存の強みをIPに転換しようとしている企業。
では、IPを持っている企業って何でしょうか。
任天堂はマリオを持っている。
→山内溥社長が宮本茂を信じて任せた。
サンリオはキティちゃんを持っている。
→創業者辻信太郎が戦争体験から「みんななかよく」を理念にキャラクタービジネスを創出。
カラーはエヴァンゲリオンを持っている。
→庵野秀明が監督と経営者を兼任。
カプコンはモンハンとストリートファイターを持っている。
→創業者の息子がモンハンのプロデューサー。
スクエニはドラクエとFFを持っている。
→ドラクエは堀井雄二、FFは坂口博信が生みの親。経営者がクリエイターを信じて任せた
レベルファイルは妖怪ウォッチを持っている。
→日野社長自らシナリオ執筆。
新興だと、
サイバーエージェント(Cygames)はウマ娘を持っている。
→渡邊耕一社長が今もアートディレクションに携わる
スパイラルキュートはちいかわを持っている。
→ちいかわが売れる前に、川上洋一社長が自ら独占ライセンス取得。
チョコレイトはパペットスンスンを持っている。
→パペットスンスンが売れる前に、独占ライセンス取得。社員としてHPにも記載されている。
miHoYo/HoYoverseは原神、崩壊シリーズを持っている。
→創業者がゲーム開発者。
MAPPAはチェンソーマンを持っている
→アニメ業界では稀な100%出資。
共通点、わかりますか?
自ら生み出したか、
出資をして権利を獲得したか、
まだ売れる前に権利取得して、めっちゃ売ったか。
差はあれど。
自らリスクを背負って作り上げたものだということなんですよね。
IPには温室が必要
IPの本質は、時間に耐えることだと思っています。
面白い話や怖い話が、伝承や都市伝説、寓話、神話になっていくのと同じです。
時間的耐久に耐えられた物語だけが、IPになっていく。
集英社や講談社などの大手出版社は、作家と流通という二つの要素を押さえることで、100年変わらない商流を作りました。
この「変わらなさ」が、作家にとっての温室になったんですよね。
商業デビューすれば原稿料がもらえる。重版やメディア化されれば本が売れる。大手出版は書店の棚を取れるから、作品が届きやすい。届きやすいと売れやすい。売れると連載が続くし、次回作も作れる。
たとえデビューできなくても、アシスタントや読切や担当編集がつくなど、創作活動の界隈に留まれる仕組みがあります。
この「100年変わらない温室」と「温室に入れる敷居の低さ」。
これが、日本から作家が生まれ続ける源泉なんだと思います。
担当者に何が起こるか
一方、新しくIPがほしい企業を想像してみてください。
だいたいの場合、創業時からエンタメやIPを狙って作ってきた会社ではないですよね。
今からIPを欲している企業です。
ということは、代表や経営権を持っている人には、会社全体の責任がある。つまり既存の事業や稼ぎ頭に使う時間がほとんどです。IPをゼロから作るという泥臭いことに、すべての時間を使うわけにはいかないんです。
会社全体の成長に責任を持っていますからね。
そうすると、どうなるか。
役員や新規事業担当、つまり偉いけど決裁権は持っていない人が、その責任を担うことになります。
1本の決裁はできる。でも100本は?
もっと具体的にお話ししますね。
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IPの卵を1本立ち上げるのに、どれくらいかかるか。
漫画なら300万円くらい。電子コミックなら100万円くらいでできちゃう。ウェブトゥーンだと2000万円くらい。アニメは1話2000-3000万円スタート。大作なら5000万、ワンクールで5億くらいでしょうか。
これくらいの金額感なんですよね。
1本1本の決裁はできるでしょう。
ただ、何度もお伝えしている通り、IPに育つには時間がかかります。10年、20年という時間軸で見ないといけない。
ということは、その時間の中で、IPの卵を作り続けないといけないんです。
8話で1巻の漫画に例えるなら、それが続かないといけない。10年単位で、続編やスピンオフも含めて。
100本やって、IPの卵は1本
じゃあ、1本やってIPの卵になるかというと、まったくです。
わたしの経験だと、100本やって30本くらいが及第点、70本が残念ながら終了。10本がヒット。1本がIPの卵として10年続いていく可能性がある。
そんな世界なんですよね。
「確率を上げればいいじゃないか」と思うかもしれません。
でも、確率を上げようとすること自体が、温室の概念を揺るがすことになるんです。
この「100本の束」と「10年という時間軸」を、ずっと掘り続ける。
経営権を持っていない人間が、その判断をできるはずがないんですよね。
その人なりには一生懸命やるでしょう。
でもね、どれだけやっても難しいんですよ。
経営権を持っている役員会なり、社長を説得できないからです。
会社の構造とIPの構造は真逆
会社とは、株主と世の中に利益をもたらす仕組みです。
会社の経営とは、安定成長、短期利益、再現性をコントロールすること。
では、IPの卵たちはどうでしょうか。
ことごとく逆なんですよね。
企画の再現性はない。
短期的には稼げない、赤字です。
安定的な成長なんてしない。
そんなものを、決裁権を持っていない担当者が、経営者や株主に説明するんです。
ちょっと想像してみてください。
あなたが身銭を切った、大事な大事な100万円を使って作る漫画があったとします。
「ゴム人間が海賊たちとの戦いを制して海賊王になる話です」
「兄弟を殺された剣士が最強の呼吸法を駆使して鬼に復讐する話です」
いくらプレゼンされても、納得できますか?
うーん、なかなか難しいですよね(笑)
それが、企業の中で毎日起こっていることなんです。
温室が戦場に変わる瞬間
これを担当者、担当役員がやるとどうなるか。
どこまで行っても、こうなります。
失敗した時に大怪我しないようにしよう。もっとミスがない、失敗しない、お金がかからない方法で試しながらやろう。少し試してダメならもっと成功確率が高い方法をやろう。
成功と失敗の判断がしやすいように、早く明確な基準を設けよう。基準を超えなかったら失敗で終了。超えても次の基準を設けて、それを突破するか見よう。
基準、判断、撤退か継続か。
この繰り返しなんですよね。
これ、IP創造と育成にすこぶる相性が悪いんです。
温室が温室ではなくなって、戦場になるからです。
どんどん「再現性」「効率化」「ヒット確率」という正義の名のもとに、変わることを求められる。
作家やクリエイターはその変化についていけない。
戦場の中で、IPが生まれるでしょうか。
外さないように、それっぽい何かが生まれ続けるだけなんですよね。
これをやると、中期的には作家が離れます。残るのは焼け野原だけです。
これを変えられるのは経営者だけ
とはいえ、任天堂のマリオも、 サイバーエージェント(Cygames)のウマ娘も、 カラーのエヴァンゲリオンも、企業発ではあります。
でも、創業社長が自らリスクを一身に背負ってやってきた、もしくは全権を任せた。
どちらかなんです。
だから、誰にも信じてもらえなくても、ただ成功とヒットを信じて時間と資源を使えた。
IPを作るには、その性質上、再現性は低いし、時間はかかるし、赤字を垂れ流します。
そのルールを、規律を、温室を作れるのは、経営者の覚悟と我慢しかいないんですよね。
クリエイターの方へ
わたし自身、この構造的な難しさがあっても、どんどん企業やクリエイターにチャレンジしてほしいなと思っています。
なぜなら、そうすることでしかIPは生まれないからです。
ただ、見るべきポイントはあります。
あなたがやろうとしている場所、企業は、どういう構造でIPを作ろうとしているのか。それはどういう人と力学で動いているのか。
それを見極めて、自分に合う温室で作品作りをすること。
これが大事なんじゃないかなと思います。
おわりに
個人的な予想なんですが、次にIPを生み出せるのは「作家か経営者か」という二択ではないと思っています。もちろん二面を持っている人が最強です。
専門性を持ったクリエイター兼ビジネスパーソンが企業化含めて、作品を作っていく。 たとえば漫画編集者やゲームクリエイター、3Dアーティストなど。
そこから、IPを生み出せる人、次世代のグローバルIL企業を作れる人が生まれるんじゃないかなと。
コミックルームの石橋さん、miHoYoの劉偉さん、MAPPAの大塚さん。
そういった小さな巨人たち、いわゆるスモールジャイアントにどんどんお金が流れ、挑戦数が増えていくこと。
これが、もっとも健全で、勝算が高く、そしてわたしが見たい未来です。












